日本百名山の自然環境に関する調査報告について
   ・調査報告書の作成日 2001年4月18日 

  (柱)本調査報告の内容は、「深田クラブに聞く日本百名山の今、登山者のマナー徹底と山岳環境の整備を」と題 して、2001年雑誌『岳人』(2001年7月号)掲載される。また、雑誌『山と渓谷』(2001年新年号に、「日本百名山の自然環境問題の現状と提言」と題して一部掲載される。)

 日本百名山の自然環境に関する調査報告 

 「モノの豊かさ」から「心の豊かさ」を求める時代となり、多くの人々が日本百名山(以下百名山)に登って、美しい自然を楽しんでいるのは大変喜ばしいことである。その反面、「傷だらけの百名山」の言葉もあるように、百名山ブームによる登山者の増加が百名山の自然環境を傷めているのは残念である。
 このような現状に鑑み、当クラブでは、ゴミ、登山道、山小屋・トイレの実態について、「以前(5〜10年)と比べて、良くなった、同じ、悪くなった」の観点から、平成12年11月に会員に対するアンケート調査を実施した。(会員数134名、回答者64名、回答率48%)

 判定基準が主観的、表面的で、個人差があることは否めないが、今回の調査結果では、登山者の増加の割にはゴミは減少し、登山道や山小屋の整備・補修は進み、総じて以前より良くなっていると言うのが大方の評価であった。ただ、登山道の整備は、過度の整備は自然を損なうので、自然保護と危険防止を主眼にした程度にとどめ、自然景観と調和したものにして欲しいとの意見が多かった。
 し尿処理は一部の山小屋でトイレの改善はみられるものの、根本的な改善は進んでいないようである。自然の浄化能力の限界を超える量のし尿は、自然保護の観点からも見過し出来ない問題であろう。景勝地である国立・国定・都道府県立公園等は、自然保護の場であり、且つレクリエーションの場でもあるので、し尿処理施設は山岳観光インフラの一環として、整備して欲しいものである。

 なお、登山時点との時差から、現状と相違しているところもあるかと思いますが、ご了承願います。自然と共生して山を楽しむために、この調査がいささかでもお役に立てば幸甚です。
 
T.アンケート調査結果の概要
1.ゴミについて
@ 登山者のゴミの持ち帰りは総じて徹底されてきており、登山道及び周辺のゴミは減少している。
A 地元観光協会等の尽力により、ゴミの清掃がされているところも多く見受けられた。
B 都市部近郊の山麓の林道脇などに、車による生活廃棄物の不法投棄が見受けられる。又、車で来た観光客が捨てたと思われるコンビニ弁当、缶コーヒ等のゴミも結構多い。
C 山菜・きのこ採りに来て捨てたと思われるゴミも意外に多い。

2.登山道について
@地元観光協会等の尽力により、登山道や標識の整備・補修は進み、総じて以前より良くなっている。整備され過ぎて自然の持つ面白味が無くなった、過剰投資等の意見も多々あった。自然を守るために、登山道の階段化、木道化等はある程度はやむを得ないだろう。
A 木道や階段化された登山道が補修されずに放置され、かえって悪くなっている所がある。
B 登山道のオーバーユースが原因で地面の裸地化や侵食、深い溝化が進んでいるところがある。
C 登山者が登山道から離れて登降するために、周辺の高山植物や湿原等が荒らされ、絶滅等の深刻な問題になっているところがある。
D 登山道の標識が古くなり、実態と違うところがあった。
E 百名山は国立公園内が73山、国定公園内が17山、都道府県立公園内が7山、その他が3山(会津駒ケ岳、武尊山、赤城山)あるが、登山道の管理状況に大きな違いはない。

3.山小屋・トイレについて
@ 山小屋の建替や改修が進み、寝具やトイレ等も良くなり、快適に過ごせる山小屋が多くなった。山小屋経営者の努力が見受けられる。
A シーズン中、特に週末の山小屋は、相変わらず混雑が凄い。
B 水洗トイレも一部に増えてきたが、宿泊者数に比べて数は少ない。
C 避難小屋の近くや休憩地の片隅が汚くて臭いところがある。
D 小屋全体は空いていても、使用する部屋や寝具を制限して、窮屈に詰め込まれることがある。

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U.美しい自然を守り、楽しい山歩きをするために
1. 登山者が守るべきこと
@ 登山における事故は自己責任であることを認識して行動する。
A 自分のゴミは持ち帰る。徹底されれば、ゴミ問題のかなりの部分が解決するだろう。 静岡県WV会(元会長)のモットーは、「登るときよりも美しく」。全員が心掛けたいものである。
B 排泄物は土の中に埋め、ちり紙は持ち帰ろう。
B 登山道から離れないように歩き、周辺の植物を踏みつけない。
C 厳しい自然環境下に生育する高山植物は神経質であるので、保護・立入禁止区域には入らない。
D 植物の盗掘をしない。
E ストック(杖)を使う場合は、自然環境を傷めないように注意する。
F ペット(犬)を連れて登っている人を時折みかけるが、好ましくない。

2.集団登山を主催するツアー会社に望むこと
@ チーフリーダー、サブリーダーは、登山経験豊かな人にして欲しい。
A 参加者に登山の自己責任やマナーを周知徹底して欲しい。
B 常識的な人数で行なって欲しい。一度に四阿山へバス5台、250名の報告があるが多過ぎる。

3.地元(含む山小屋)に望むこと
@ 美しい自然は郷土や国の財産であるので大切にして欲しい。
A 登山道の整備・補修は自然保護と登山者の危険防止に重点を置き、過度の整備・補修は自然を損なうので、自然景観との調和を考慮して行って欲しい。又、標識も整備して欲しい。
B 自然環境を守るためには、地元の判断で、人数制限、入山料、車規制等もやむを得ないだろう。
C 安価で清潔な宿泊施設(山小屋、民宿等)、避難小屋、インフォメーション等を整備して欲しい。
D 登山者の多い山は、登山口(下山口)或いは山中にトイレを作って欲しい。
E 山のことは地元が一番詳しいので、地元主催のガイド付登山(有料)を実施して欲しい。現地の観光案内所や宿で申込できるようになれば良いと思う。
F 登山者は山小屋に必要以上の快適さを求めるべきでないが、清潔な環境を提供して欲しい。
G 登山者の週末集中は、基本的には我が国の休暇制度に係わる問題であるが、
  ウィークデーにはバスの便が無くなるところもある。一日一本は運行して欲しい。

 4.行政(政府・地方自治体)に望むこと
@ 一般道路と登山道を法的に区別し、登山道は登山道らしく、自然に調和した整備が出来ないだろうか。登山は自己責任であるので、過度に整備する必要はない。
A し尿処理、登山道の裸地化・侵食等の問題は、山岳観光インフラの一環として整備して欲しい。
B 6百万人とも8百万人とも云われる登山愛好者から寄付金を集め、し尿処理問題を解決するための「山のトイレ基金」のようなものを作ってはどうだろうか。
C 国立公園・国定公園敷地の約3割は個人所有地といわれる。地主により両神山の登山道が閉鎖されたが、私有地内登山道は借地化する等管理ルールを明確にし、再発を防止して欲しい。
D ソーラーシステム等の最新技術が山小屋のし尿処理等にも活用され、安価で清潔な山小屋等が整っている欧米の山では、自然を楽しむ若者や家族連れが多い。 我が国の山では若者や家族連れの山離れが久しいが、この原因の一つに、山のトイレ問題があるのではないだろうか。国立・国定・都道府県立公園等は、自然保護の場であると共に国民のレクリエーションの場でもあるので、山岳観光インフラを整備して欲しいものである。